「治すなんておこがましい」という師匠の教え
私の整体の師匠、西田先生がよく口にするのが、
「治すなんておこがましい」
という言葉です。
西田先生は自分の師匠から教えられたそうです。
「治すなんておこがましい」とはどういう意味でしょうか。
一般的には、痛みを取る、治すのが整体の役割と考えられていますから、「治すなんておこがましい」という考え方はわかりにくいかもしれません。
私が専門とする自律神経整体は、自律神経の不調改善を目的としています。
自律神経失調症の原因は、骨格筋の過緊張(疲労、緊張の継続)により、自律神経システムが正常に機能しなくなることにありますが、そもそもの原因はその人の生活習慣や生き方にあります。
痛みや病気を治癒へ導くためには、施術するだけではなく、その理由と原因を知り、本人に気づいてもらう必要があります。
施術で身体の緊張をゆるめながら、お客さまが理由と原因を理解して、本人の意思で生活や生き方を変えていけば、身体の治癒力が働くようになり、痛みや病はしだいに治っていきます。
私の整体は、治癒力を取り戻して自分の力で治してもらうためのサポート、手助けという役割なのです。
人間は生まれながらにして、身体の不調を自分で治すことができる力が備わっています。
自然治癒力、免疫力、恒常性維持機能(ホメオスタシス)などと呼ばれる力です。
このような力が発揮されているために、けがや病気をしても私たちは生命を維持できているのです。
痛みや病気が治るのはその人の治癒力が働いているためで、整体はそのための手助けをしているのにすぎません。
治るための「きっかけ」を与えているにすぎないのです。
本人の治癒力で治っているのに、整体師が治してあげていると勘違いしてしまうのは思い上がりではないでしょうか。
人間は自らが持つ自然の力にもっと謙虚であるべきです。
人間が生まれ持った生命の力こそが、尊重すべき素晴らしい力なのです。
「治すなんておこがましい」という教えには、このような戒めの意味があります。
師匠の言葉には次のようなものもあります。
「治ることがいいとは限らない」
「治らないものを治してはならない」
これも「治すのが仕事」と考えている整体師には理解しがたい言葉かもしれません。
痛みや病気には必ず原因があります。
多くの場合、その原因はその人の生活や生き方にあります。
人によっては「病気でいることが必要」である場合もあります。
病気でいることでかろうじて心身のバランスを取っている場合もあるのです。
また、今は治るべき時期ではないのかもしれないし、その人にとって治っては困るのかもしれない場合もあります。
そのような人の痛みや病気が一時的に治っても、生き方が変わらなければいずれは再び痛みや病気に悩まされることになるでしょう。
病気に依存している人にとっては「治ることがいいとは限らない」し、「治らないものを治してはならない」のです。
ちょっとややこしい話ですが、「なぜ病気になったのか」という原因を知ることが重要であるということです。
薬や治療に依存せず、自分が持っている生命の力、自然の力で自立して健康を取り戻してもらうこと。
そのためのサポート、手助けが私の役割であること。
「治すなんておこがましい」という言葉とともに忘れないようにしたいと思います。